それは『Number1』ではなく【新保信長】新連載「体験的雑誌クロニクル」3冊目
新保信長「体験的雑誌クロニクル」3冊目
私自身、『Number』はかなりの頻度で購読しているし、仕事も何度かした。349号「スポーツ美少女、夏の記憶」(1995年)で女子プロレスの福岡晶らを取材したのがたぶん最初。622号「スポーツ小兵列伝。」(2005年)ではサッカー日本代表の森島寛晃にインタビューし、736号「あの人のノートが見たい。」(2009年)では「東大運動部のノートはかならず美しいか?」という記事で東大野球部と女子バレー部、アメフト部を取材した。南信長名義でスポーツマンガ関連の記事や書評も何度か書いた。が、何より記憶に刻まれているのは、584号「阪神の国 ニッポン」である。
時は2003年。我らが阪神タイガースは闘将・星野仙一監督の下、18年ぶりの優勝に向けて奇跡の快進撃を続けていた。大阪の街は虎フィーバーに沸き、『Number』も581号「虎に酔う。」に続く2度目の阪神特集を組んでイケイケだ。しかし、この年は『週刊文春』が星野監督の“黒い交際”を報じたため、同じ文藝春秋の雑誌である『Number』は阪神球団から出禁を食らっていたのだった。
よって、星野監督はもちろん選手の取材もできない。となると、周辺取材や企画記事で固めるしかなく、永谷修によるノンフィクション「7粒の虎の涙。」、藤木TDCによる「偏愛猛虎絵巻1985-2003」、石黒謙吾による「『阪神顔』はかくあるべし!」といった記事が並ぶ。そんななかで私が担当したのは「ダメ虎時代を支えた名脇役たち。」という記事だった。現役選手に取材できないのでOBを攻めろ、というわけだ。
総勢15人(取材が叶わなかった源五郎丸洋を含む)のうち、中田良弘、大野久、遠山奨志、仲田幸司、伊藤敦規、長崎慶一、弓長起浩の7人を私が担当した。東京、大阪、茨城、愛知、鳥取を2週間で飛び回る。同時に『週刊SPA!』臨時増刊の阪神特集号の取材や執筆、虎ファン漫画家アンソロジー『虎漫』の原稿依頼や打ち合わせもあり、当然レギュラーの仕事もある。さらに、プライベートで阪神の試合を見るため甲子園はもちろん広島、名古屋にも遠征していたため、当時のスケジュール帳は真っ黒だ。それでも9月15日、甲子園で星野監督の胴上げを見ることができたので、生涯最高の年と言っていい。
星野監督といえば、今年9月発売の『Number』1104号で「星野仙一と仰木彬。」という特集があった。「令和に考える『昭和の監督論』」という、ちょっとひねった企画である。大谷翔平のケタはずれの活躍もあり、近年はメジャーリーグ特集が多く、次いでプロ野球、サッカー、ボクシング、あとは季節もので高校野球、競馬、五輪あたりが定番だが、たまに繰り出す変化球の特集に「おっ!」と思う。1064号「M–1グランプリ スポーツとしての4分間の競技漫才」(2022年)には「そうきたか!」とひざを打った。藤井聡太人気にあやかり、最初に将棋特集が組まれたときも驚いた。
しかし、創刊当初の特集はもっとすごかったのである。15号では「大相撲の『八百長』って何だ!?」と、いきなり危険球を投げ込む。29号「浅井愼平のスポーツカメラでオーストラリアの『いい海』発見!」は、ライフセイビングやサーフィンなどのマリンスポーツを紹介しているのだが、そのノリはまるで初期の『POPEYE』のよう。36号「風立ちぬSEXY SPORTSをどうぞ!」の巻頭では「地球星は今ときめきのジャズダンス」と題して金髪の外国人女性モデルがポーズを決める。「一瞬のオシャレ泥棒たち」というコーナーでは、ハナ・マンドリコワ、クリス・エバート・ロイド、馬淵よしのらのセクシーショットを掲載。新体操の選手の写真に〈ビニ本風開脚は日常茶飯事〉なんて説明が付いてて、今なら完全にアウトである。
とにかく創刊100号くらいまでの『Number』には、「なんじゃこりゃ!?」と目を疑うような特集がしばしば登場する。「スポーツ好きの高校、大学、社会人フレッシュマンへの贈物」(26号)、「スポーツの世界に『神』はあるか? ジンクス大研究」(67号)、「旅はスポーツ、スポーツは旅」(84号)あたりはまだいいが、「今、豊かに質素生活を楽しむ」(82号)となると、さすがに首を傾げてしまう。
緑の木立の中に手をつないでたたずむ外国人父子が表紙。「そよ風対談 セカンドハウスで楽しむ」「秩父山中2万円生活の斎藤たまさん」「八ヶ岳山麓・手作り生活の大笘夫妻」といった〈豊かに質素生活を楽しむ人たち〉を紹介し、なんとあの“フォークの神様”岡林信康まで登場する。ほかにも「いま流行のログ・キャビン・スクールに参加してみた」「ぶどうのツルで草履を作ろう」「自家製キノコを栽培しよう」なんて記事が目白押しで、ほとんど『田舎暮らしの本』か『BE-PAL』かという感じ。これには編集部も〈「ナンバー」が贈る「新・質素生活のすすめ」〉と銘打ちつつ、〈これ、スポーツにあらずや?〉と自信なさげなコピーを添えている。